2020年6月26日、ブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」がオンラインイベントとして「ブロックチェーンから始まる『不動産』市場の大転換──『セキュリティトークン』から『流通のトレーサビリティ』まで」を開催した。
参加したのは、三井不動産のCVC部門ブロックチェーン分野のスタートアップへの投資を行なっている能登谷寛氏、LIFULL社長室でブロックチェーン推進グループ長を担う松坂維大氏、LayerX執行役員であり三井物産デジタル・アセットマネジメント取締役を兼任する丸野宏之氏である。議論内容は、新登場したブロックチェーン技術の不動産領域での応用や今後のビジネスの見通しに関してだ。
次回のイベントは、7月9日(木)午後7時からであり、フューチャリスト・IT批評家の尾原和啓氏、LayerX CEO 福島良典氏を招き、「ブロックチェーン進化論―ネットビジネスの大変動が始まる」をテーマに開かれる。
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ブロックチェーン上に不動産の権利移転を記録する
LIFULLの松坂氏は、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を提供しており、同社が取り組むブロックチェーン技術を使用した実証実験を紹介した。不動産のトークン化に関しては「権利表象(権利トークン)」「小口化(持ち分トークン)」「真正性担保(情報オラクル)」の3つのテーマを解説した。
松坂維大氏のプレゼンテーションより(引用:https://www.coindeskjapan.com/68424/)
1つ目の「権利表象(権利トークン)」については、ブロックチェーンを使用した不動産権利譲渡を実施した。舞台となったのは、岩手県釜石市にある放って置かれている空き家である。市場価値より移転登記費用が上回り、譲渡の予定が見込めないため、相続後も未登記で放置された物件である。
松坂氏は「登記費用がボトルネックであったが、ブロックチェーンを使用することによりある程度の成果を獲得した」と語り、新たな技術を用いたことによりコスト削減ができたことを強調した。今回の「権利表象(権利トークン)」の実証実験を図示すると以下のようになる。
実際の構造は、不動産の権利証明(登記簿等)を基盤として「NFT(Non-Fungible Token)」と称される「代替不可能なトークン」によって所有権をトークン化した。譲渡元と譲渡先のウォレット(トークンを保管する場所)の間で、代金の支払いと所有権トークンの送付のやり取りを行った。
松坂氏は「大抵の不動産権利の受け渡しでは契約に加えて登録を行うことで『二重譲渡』を妨げていた。しかし、今回の物件は『不動産価値が無いので欲しがる人はいない』という前提で登録はせず不動産譲渡の契約のみを実施し、契約が有する公証性をブロックチェーンに記録することで保証した」と説明した。
これを受け、三井不動産の能登谷氏は「たしかに不動産を購入した人や譲渡を受けた人には『登記しない自由』もある。もし不動産の二重譲渡が問題であるとすれば、誰も欲しがらない物件に対しては今回の釜石市のような方法が行えると考えられる。しかし、全ケースにおいて適応可能というわけではない」と述べ、不動産ビジネスにおいては「第三者対抗要件(当事者間で有効な権利関係)」が問題であることを指示した。
加えて、オンラインイベントでは、松坂氏が残り2つの「小口化(持ち分トークン)」「真正性担保(情報オラクル)」に関しても解説した。
アセットマネジメント会社の能率化を三井物産のグループ力で狙う
続いて、ブロックチェーン技術関連の事業を展開するLayerXの執行役員であり、三井物産・LayerX・SMBC日興証券・三井住友信託銀行が出資して創設した三井物産デジタル・アセットマネジメント取締役を兼任する丸野宏之氏が登壇した。同社を創立した経緯と今後の戦略を語った。
丸野氏は「新たな会社創立設立の狙いは、効率的なアセットマネジメント会社を目指すこととである」と述べ、同社が実施している「自社コーポレート業務」「資金調達・原簿管理」「ファンド運営」「業界横断・登記領域」の4つのステップで築かれる「デジタル技術活用ロードマップ」を表示した。
現在は2番目の「資金調達・原簿管理」に取り組んでいる。従来の紙やExcelのような表計算ソフトで管理されていた原簿をデジタル上で管理し、権利移転を容易にし、誰がどのくらい保有しているのかを識別しやすくすることで配当の計算を簡単にする仕組みを構築することに力を注いでいる。
また具体的な取り組みとして、現在実施している「ST(Security Token:デジタル証券)」の実証ファンドを紹介した。実際のファンドにおける「期中管理」を効率化するためのシステムに関して説明し、これから配当のコスト削減やセカンダリーマーケット(二次流通市場)の仕組み構築を行っていくと解説した。
セキュリティトークン(ST)と投資型クラウドファンディングの違いは?
オンラインイベントでは松坂氏と丸野氏のプレゼンテーションに続いて、能登谷氏を加えて、オーディエンスからの質疑応答の形でディスカッションを行った。
会場から質問として「投資型クラウドファンディングとセキュリティトークン(ST)の構造をを比較した際、セカンダリーマーケット以外にセキュリティトークンを使用した時の優位性はあるか?」と挙げられた。
その質問に対して丸野氏は「不動産クラウドファンディングとセキュリティトークン(ST)の明らかな違いはセカンダリーマーケットだが、配当計算を考慮したプロセス全体の効率化が重要なポイントだ。さらに個人向けの不動産クラウドファンディングは二次流通が存在しないため長期のファンドを構成し難く、事業者からすると、リファイナンスする(負債を新しい負債に変換する)必要があるため手間が多い」と回答した。
能登谷氏も「リファイナンスは重要であり、セカンダリーマーケットの存在により、3年、5年と安定的にファンドが構成できれば、不動産市場の状況は変化するだろう」と語った。
他にも「トークン化すれば登録費用が必要ないとは、どういうことか?」「権利移転にイーサリアムを使用したということだが、基本的な構造を教えてほしい」など、オーディエンスから数十個以上の質問が寄せられ、スピーカーとの意見交換が活発的に行われた。
7月9日は尾原和啓・Layer CEOの福島良典両氏が登壇
次回のオンラインイベントは、「ブロックチェーン進化論―ネットビジネスの大変動が始まる」をテーマに7月9日(木)午後7時より実施予定。無料で参加でき、7万部突破の共著『アフターデジタル』ほか新著『ネットビジネス進化論』がベストセラーとなっているフューチャリスト・IT批評家の尾原和啓氏、LayerX CEO 福島良典氏を招き、開かれる。