人工知能(AI)と肩を並べる中核技術「ブロックチェーン(分散型台帳)」で、中国による特許出願が米国の3倍に到達したことが明らかになった。ブロックチェーンは、データ改ざんが難しく、デジタル通貨や物流がベースとなるインフラへの適用が進んでいる。先行すれば新たなサービスや国際金融市場で優勢になる見通しがあり、中国企業が技術の確保を強化する。次世代技術に対する攻守がより一層厳しくなり、日本を含めた主要国政府や企業も対策を強いられる。
知的財産データベースを管理するアスタミューゼ(東京・千代田)がブロックチェーンの特許出願数を調べたところ、米中、日韓ドイツ5カ国の企業の出願合計関連特許数は09~18年春に約1万2千件であった。14年までは年100~200件台で移行したが、16年以降急増した。
国別では「米国vs中国」の構図が明白である。累計出願数を出願人の国別で見ると、中国が約7,600件と全体の6割強を満たし、米国の約2,600件の3倍に達した。15年までは米国が中国を上回っていたが16年以降逆転した。日本は18年までの累計で約380件と、韓国の約1,150件に次ぐ4位であった。
しかしながら、知財サービス会社の日本技術貿易(東京・港)が、米特許情報会社イノグラフィーの特許データを用いて勘定した、09年〜19年8月の企業別出願ランキングでは、中国のネット通販の大手であるアリババ集団が512件で首位であった。2位は468件のブロックチェーン企業の英nChain、3位は248件の米IBMが続いた。
近年、暗号資産で使用される「ビットコイン」のようなブロックチェーンは使い道が広がっている。食の安全の向上が期待できる新しい生産・物流管理や、学習履歴に対応した新教育システムなどの開発が見込まれている。
アリババの傘下のスマホ決済「支付宝(アリペイ)」やネット通販でブロックチェーン技術の活用を進める。ネット通販では商品の製造・物流・販売のデータ管理をブロックチェーンで行い、偽造品の防止や、フィリピンと香港間で電子送金の仕組みを構築している。
中国やスウェーデンの中央銀行が準備するデジタル通貨でも、中核技術としてブロックチェーンは注目されている。中国人民銀行はデジタル貨幣研究所を設立し、ブロックチェーン特許を踏まえた技術開発を急進している。
河野英仁弁理士は、「特許をおさえられると使用料の支払いなどで事業展開の障害になる」と述べた。同レベルの技術特許を持っていなければ、クロスライセンス(特許の相互利用)が実現せずモノやサービスの開発が困難になる。
かつて特許の大量出願を行なった日本企業は、ハイテク分野で競争力の維持ができなかった。中国企業の特許攻勢の効果には不明瞭な部分も残るが、主要国政府の産業政策や企業の研究開発に影響を与える。
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