【導入事例】「纸贵科技(ジッグラト)×ブロックチェーン」の中国プロジェクト


※株式会社INKBATORは、2019.9に組織体制改編のため中国法人 纸贵科技(ジッグラト)に統合され、今後は纸贵科技(ジッグラト)として引き続き活動していきます。(2019.7.25更新)

今、「スマート農業」というワードが急拡大している。ブロックチェーンや、IoT、ロボット技術などの最新技術を駆使して、農業の生産性を向上させようとするものだ。農家の後継者不足問題、天候不順等による農作物出荷量の減少など大きな課題を抱えている。纸贵科技では、ブロックチェーン技術によって農作物の廃棄減少や流通経路の透明化を実現させる技術開発を行なっており、農業生産性を飛躍させるためのデジタル技術を世界へ発信している。今回は、そんな同社の最新テクノロジーを紹介していく。

概要

現在中国では、国主導でブロックチェーン技術の業界育成が行われており、人材確保や技術力向上などに相当の資金や労力を費やしている。その中で、実ビジネスでも導入しているケースが最近出始めている。今回は、そんな実ビジネスで利用されている事例を紹介していき、ブロックチェーンがどのように機能しているのかぜひ参考にしていただきたい。

バックグラウンド

①「天水チェーンリンゴ」
この案件は、2018年に纸贵科技が中国天水市行政と共同開発した中国初となるリンゴのトレーサビリティ案件である。
天水リンゴはブランドリンゴとして中国国内では有名な商品だ。しかし近年、偽物の天水リンゴが市場に出回るようになり、その影響を受けた天水リンゴ農家の売り上げは減少を辿る一方だった。

②「GERUNブロックチェーンたまご」
2018年に中国国内生鮮たまご大手企業と共同開発した中国初となるたまごのトレーサビリティ案件である。
中国国内で「食の安全」に関する行政命令があり、生鮮たまご業界全体でブロックチェーン導入が検討され始めていた。

③「著作権保護プラットフォーム」
2016年に著作権保護プラットフォームが開発された。
デジタルコンテンツの存在証明を行う機関がまだまだ少なく、そのため多くの手間や時間がかかっていた。
さらに、クリエイターなどの個人や企業において、著作権侵害・盗作被害が横行しており、ブロックチェーン技術による改善が求められていた。

ブロックチェーンの導入

導入目的

①「天水リンゴ」
政府は天水リンゴというブランドを蘇らせることにゴールを据えた。
まずブランド価値を取り戻すためには、まず消費者に安心感を届ける必要があった。そこで、「信ぴょう性あるデータの採取」、「安全なデータ保管運用」、そして「消費者が手軽に情報を確認できるソフトウェアの開発」が必要だった。検討の結果、データ保管に関しては、改ざんできない且つ運営コストが安いブロックチェーンシステムが用いられることになった。

②「GERUNブロックチェーンたまご」
上記①と類似する点が多い。強固なセキュリティと情報基盤のもとで消費者に「食の安全」を届けられるか、という点が重要となってくる。

③「著作権保護プラットフォーム」
著作権侵害や盗作が横行している中で、著作権情報(作者名、作品名等)をブロックチェーン上(同社開発技術:Z-ledger)にアップロードし、情報管理と法的保護を実現させるために導入される。

導入内容

①「天水リンゴ」
ブロックチェーン開発を担った会社は、ブロックチェーン・分散型技術の独自研究開発、著作権保護プラットフォーム、データガバナンス、金融システムなど多分野において技術提供やシステム開発経験がある纸贵科技だ。
同社が独自開発したコンソーシアムチェーンZ-ledgerに、リンゴの種まきから梱包に至るまで全生産過程情報を記録した。
さらに、リンゴの表面にQRコードを日焼けさせ、消費者はお手持ちのスマートフォンを使って手軽にリンゴの諸情報を確認することができる。

②「GERUNブロックチェーンたまご」
卵を産んだニワトリの情報(大きさや年齢)・ニワトリの飼育環境から始まり、卵そのものの情報(重さ、含有成分など)、また卵が出荷されてからスーパーに陳列されるまでの一連の情報をブロックチェーン(Z-ledger)に記載。
たまごの表面にQRコードを日焼けさせ、消費者はスマートフォンを使って情報を確認することができる。

③「著作権保護プラットフォーム」
公証役場、著作権管理機関、大学がノードとなり、著作権データ認証データの保管、モニターニング機能を果たす。
著作権情報(作者名、作品名等)をブロックチェーン(Z-ledger)にアップロードし、保管と法的保護を実現。
著作権侵害が起きた場合、裁判所はチェーンに記録された認証をエビデンスとして参照する。

導入結果または期待されること

①「天水リンゴ」
リンゴの種まきから梱包に至るまでの全生産過程情報をブロックチェーンに記録することで、リンゴの安全性担保とブランド力醸成に大きく貢献することとなった。
換言すると、消費者はリンゴにまつわる情報を簡単に確認することができ、安心して購入できるようになった。

QRコード読取り率300%以上(=1つのリンゴを3人が読み取る)、他のリンゴと比べて再購買率は150%にも及び、メディアや口コミで話題となった。
本プロジェクトは、来シーズンもさらに多くの農家、農地が当案件に参画する予定である。また、他の農産物や畜産物へも同システムを導入中である。

そして、偽物の流通を少しずつ淘汰させることができ、本来の天水リンゴであるとういことをブロックチェーン技術で証明することができるようになり、本来あるべき収入が農家に入るようになったことも大きな成果である。

②「GERUNブロックチェーンたまご」
上述の天水リンゴと同様、消費者は、たまごにまつわる情報を簡単に確認することができ、安心して購入できるようになった。
GERUNグループは同業界で初めてブロックチェーン導入したことで、同業企業からの注目を集めた。
食の安全を守るだけでなく、企業ブランディングにも貢献した。

③「著作権保護プラットフォーム」
ノードに管理機関等が参加し、司法機関に認められる法的効力(中国国内)をもつ水準になっている。
そのデジタルコンテンツ登録数100万件を突破しており、その登録にかかる時間はほんの数秒で済むため、手間や時間を大幅に削減することが可能になった。
さらに、中国信通院(CAICT)主催「信頼性のあるブロックチェーンサミット応用事例」においてTOP10入りを果たしている。

~インタビュー特集~天水リンゴプロジェクトについて
プロジェクトマネージャー フランク氏

受注のキッカケとしてどのような課題(相談)が先方にあったのでしょうか?
天水市政府・天水市林業局より持ち込んだ案件でした。
案件の背景としては、
・偽物の「天水りんご」が出回っていたこと
・そのせいで「天水りんご」農家の収入が減っていること
・既存の打ち手=タグ付けるなどの対策するものの、十分な安心感、信頼感を得ることができずにいる
以上3点が大きな課題でした。
どのくらいの期間で完成したのでしょうか?
トータルで約3か月です。
要件定義とプロダクト設計の試行錯誤に1ヵ月ほどかかりました。
どのような過程(ステップ)を踏んでいたのでしょうか?
案件の課題を特定すべくリサーチを徹底しました。
まず、カスタマーはどんなことに安心感を抱くのか、なぜ現状の打ち手ではNGなのかを定性定量調査をし、結果として「生産情報がわからないから不安」という部分に課題があることを特定しました。
次に打ち手を考えました。
情報を見える化できるようにするために、トレーサビリティの導入はもちろん、生産者が手軽に入力でき、消費者が手軽に情報確認できる仕組みを作ることに心がけました。
そして、最後に開発実装段階に踏み込みました。

無論、これらプロジェクトには課題もある。まず、ブロックチェーンの運営コストは低く抑えられるものの、開発コストは既存のサーバーシステムよりもやや高いのが現状だ。

ブロックチェーンのイニシャルコスト問題について、纸贵科技のフランク氏はインタビューでこう語った。
「一般的にブロックチェーンのイニシャルコストは高いと言われますが、そこには開発規模の検討、ナレッジ不足等の問題があると思います。私たちはまず顧客のニーズに対し、既存のシステムの一部をブロックチェーンを使ったシステムに置き換えるか、またはすべてを置き換えるのかをきちんとヒアリングさせていただきます。
それから、幅広い分野にわたる開発経験や実績を適切に応用させていただきます。日本国内で開発を委託する場合は、エンジニアや技術力の不足からコストを抑えるのは難しいですが、私たちは中国を拠点に開発経験豊富な自社エンジニアを多く抱えているので、日本国内他社に比べてコスト面のご相談に乗ることができます。
結果、顧客にとって多くの選択肢が生まれ、イニシャルコストを安く抑えることが可能となります。」

次に、ブロックチェーン技術を用いるだけでは、偽造を防げるわけではないのが現状だ。
誤った情報をインプットされればそれまで。QRコード+読み取ったページは、偽造しようと思えば可能だ。
ただし、誤情報インプットはIoT等との組み合わせにより、今後は改善されることが期待される。現状は行政やJAによる管理の下で情報インプットを行っている。QRコードについては、農地やシーズンごとに割り振っており、さらにリンゴの日照時間などいくつかの条件が揃わなければQRコードは綺麗に日焼けされないため、ただコピーし応用するということは難しい。

最後に、指定の販売場所を設けたり、専用アプリでないとQRコードが読み取れないなどの対策なども行っている。このような条件をかいくぐり偽造するには一体どれほどのコストがかかるかはもう想像に容易い。つまり、ブロックチェーンや分散型技術とその他技術や工夫が上手く組み合わさることによって、「食の安全性」や「偽造防止」に貢献し、「信頼」の力が上手く作用するのだ。

上記のように、リンゴにまつわる情報を可視化させることにより、中国国内に根付いている「食の安全性」についても十分な信頼感を消費者に与えることができた。同社にとってこのプロジェクトは好事例として評判を呼んでいるだけでなく、社会貢献の観点でも非常に功績高いものとなっている。
日本でも米や牛肉の偽造問題が起きている。同案件のようなブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティシステムは、サプライチェーンを可視化させることで、「安全性」はもとより、企業の「信ぴょう性」の証明にもその存在価値を発揮するのではないだろうか。

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