2017年5月、約3000万(2015年)の契約口数を持つ最大手の東京電力ホールディングスが、エネルギー分野におけるブロックチェーンの活用を推進する国際組織、EWF(Energy Web Foundation)に加盟した。国外でも、ドイツやイギリス、シンガポールにおいて、ブロックチェーン技術を応用して発電した電力を個人間で自由に売買する電力取引(P2P電力取引)のプラットフォームを手がけるブロックチェーン・ベンチャー企業へ出資するなど積極的な動きが目立つ。さらに国内では、電力小売サービスを展開するTRENDEが設立された。
国内電力・ガス会社のブロックチェーン技術を活用した取り組み
関西電力は、オーストラリアのブロックチェーン・ベンチャー企業、東京大学・日本ユニシス・三菱UFJ銀行と連携し、P2P電力取引の実証実験を実施している。さらに、アクセンチュアと共同でK4Digitalを設立し、2019年2月には富士通・レポハピを加え、ブロックチェーン技術を活用した新しいポイント流通システム「はぴeポイント」の実証試験を実施している。
中部電力は、電気自動車等の充電履歴をブロックチェーンで管理する技術を実証実験している。さらにブロックチェーンを活用した個人間や企業と個人間の電力取引マーケットプレイスの提供を構想している。将来的にはAI、IoT、ブロックチェーン等の技術を活用するという。
大阪ガスは、P2P電力取引の居住者実証実験を実施した。また、小型の分散型発電システムを利用することでマイクログリッドを構築し、停電時を想定したブロックチェーン技術による管理を検証する実証実験も同時に実施した。さらに熊本電力では、ベンチャー企業と連携して暗号資産マイニング事業を稼働させるなど、いくつかの取り組みがなされている。
東京ガスや九州電力は、ブロックチェーン技術を活用した電力および太陽光や風力で発電された等の環境価値における直接取引プラットフォーム事業を行うデジタルグリッドへ出資するなど、P2P電力取引の中でも電力の付加価値として環境価値の取引も構想している。
取り組みが目立つ「P2P電力取引」
ブロックチェーン技術の応用について、特に発電した電力を個人間で売買する「P2P電力取引」プラットフォームの実証実験・構築に各電力・ガス会社が注力していることがわかる。
日本では、2009年から太陽光など再生可能エネルギーを電力会社が買い取ることを国が保証する「固定価格買取制度」が始まり、余剰電力を販売できる手立てが開けている。また2016年4月、電力の小売りが全面自由化、2017年4月には都市ガスの小売りも自由化し、消費者が自らどの企業から電気やガスを購入するかを選ぶ意識が根づき始めている。住宅用太陽光発電の余剰電力は、固定価格での買取期間が10年間と定められている。2019年11月以降、10年間の買取期間が順次満了となる。
現在、再生可能エネルギーなどの分散型電源を保有する生産消費者(プロシューマー)が増え、発電した電力を売買する電力取引の仕組みに注目が集まっている。この仕組みには、電力の正しい計測や電力網などのインフラが必要である。そのため、主体となるサービス運営者が求められる。こうしたエネルギー産業を取り巻く環境の変化が、各電力・ガス会社がP2P電力取引プラットフォームに力を入れる理由の1つとして考えられる。
ブロックチェーン技術の特徴として、「データの耐改ざん性」「記録の不可逆性」などがある。電力計測器そのものがハッキングされない限り、プロシューマーによる余剰電力の発電量や購入側の電力消費量等の情報が不正・改ざんされない。P2P電力取引においても透明性が高く正確な取引が実現できると期待されている。
また、発電した電力の価値を証明するものとしてトークンを発行(トークン化)し、取引や決済に用いることで、今まで送金・着金など取引の手続きにかかっていた時間を縮小できる。さらにトークン化する際に、太陽光や風力で発電されたなど「電力の環境価値」を計測し、証明書を発行することによって環境価値を付加価値として消費者へ提供することが可能になる。
環境価値を取引する同様の事例として、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証しクレジットを発行する仕組み「J-クレジット」において、楽天エナジートレーディングシステムが「Rakuten Energy Trading System」を提供している。権利をブロックチェーン上で管理し、トレーディングシステムを構築している。電力ベンチャーのデジタルグリッドは、環境省「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」に採択され、太陽光発電等の環境価値の高い再生可能エネルギーのP2P電力取引の取引実証を行っている。