金融安定理事会(FSB)の新議長に就いたクオールズ氏(米連邦準備理事会=FRB=副議長)は3月のドイツにおける講演で、「技術革新は効率的な金融システムの提供をすると同時に、新たなリスクをもたらす」と述べ、ブロックチェーン技術が将来的に金融に与える影響を研究する必要性を強調した。
クオールズ氏は、銀行のような金融仲介機能を介さず「市場参加者を直接つなげる動き」が進んだ場合、規制当局は新たな金融にどう対応すべきなのかという課題について提起した。
想定される姿のひとつとして、インターネット経由で融資を仲介する(お金を必要とする企業の事業計画を仲介事業者がネットに載せ、資金の出し手を募る)新しいソーシャルレンディングがある。これによって、ブロックチェーン技術を応用し、仲介なしに参加者同士で直接お金の貸し借りが可能になるとみられる。仲介者がいないため、その分の手数料などは生じない。
しかし、与信審査などを欠いた資金取引は、詐欺のような不正行為があったり返済が滞ったりした場合に、誰が責任を担えるのかという問題を生じさせる。「国や組織の制約を受けない自由な経済活動ができる一方、完全に個人責任の世界になる」と早稲田大ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は指摘する。
この場合、取引を介在する事業者がいなければ、規制をしようにもそもそも対象がいないという問題も浮かぶ。規制対象は銀行だけではない。以前、暗号資産の流出事件では交換会社の責任を追及できた。こうした事業者が不要になると、ブロックチェーンの基盤を使った新型金融の仕組みが破綻した際に、消費者の保護や信用秩序を維持する手立てがなくなる。
銀行を中心とする金融体系では、お金の流れは最終的に中央銀行が把握できる。しかし、ブロックチェーンを基盤とする新型金融はその枠外にあるため、もしもの時に金融市場に及ぼすリスクの大きさを読みきれない。金融とIT(情報技術)を融合させたフィンテック企業が登場し、銀行を中心とした既存の金融秩序は変容しつつある。
新しい技術を使って個人や企業が銀行を介さない取引が世界で現実味を帯びている。日本は、議長を務める6月の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議において、金融システムの安定策を巡る議論を主導し、論点を詰める方針だ。
金融庁は6月8~9日に福岡で開くG20財務相・中央銀行総裁会議を見据え、関係国と調整を始めた。4月には、各国の規制当局との会合でこの問題を提起し、金融システムの安定や規制手法について議論した。
会合に参加した氷見野良三金融国際審議官は、「規制ですべてに網をかけようとしても限界がある。技術者を含めて早いうちから問題意識を共有しておくことに意味がある」と述べる。